ランダウ力学 §39問題1 解説

投稿日:  更新日:2022/09/02

物理学 力学

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ランダウ゠リフシッツ理論物理学教程の力学(増訂第3版)の§39の問題1の解説です.

問題

自由落下する物体が, 地球の自転(その角速度は小さいとみなす)によって鉛直方向からそらされる大きさを見いだせ.

解答作成

重力加速度ベクトルをgとすると, 重力場は

(1)U=mgr

となる. 非慣性系における運動方程式

(39.7)mdvdt=UrmW+mr×Ω+2mv×Ω+m{Ω×(r×Ω)}

において, 重力場のポテンシャルエネルギーを代入し, W=0(地球の並進運動の影響はしない), Ω˙=0(地球の自転の角速度は変化しないとする)とし, Ωの2次以上の項を無視(地球の自転の角速度は小さいとする)すると, 最終的にCoriolisの力だけが残り,

(2)v˙=2v×Ω+g

となる.

(2)Picardの逐次近似法(Picard iteration)によって解く. 積分方程式に変換すると,

(3)vn=v0+0t(2vn1×Ω+g)dt

となる(ただし, 初速度v0の時刻をt=0とする).

  • n=1のとき,
    v1=v0+0t(2v0×Ω+g)dt(4)=v0+gt+2tv0×Ω
    となる.
  • n=2のとき,
    v2=v0+0t(2v1×Ω+g)dt=v0+0t{2(v0+gt+2tv0×Ω)×Ω+g}dt=v0+2tv0×Ω+t2g×Ω+2t2(v0×Ω)×Ω+gt(5)v0+2tv0×Ω+t2g×Ω+gt
    となる(Ωの2次以上の項を無視). これ以上逐次近似を重ねても, Ωの2次以上の項を無視する限りは変化はない.

これを積分して,

(6)r=h+v0t+t22g+t2v0×Ω+t33g×Ω

を得る(ただし, 粒子の最初の位置ベクトルをhとする).

さて, 具体的に粒子の位置を北半球とし,

  • z軸を鉛直方向に
  • x軸を子午線に沿って極へ向かう方向に

とる. すると, 重力加速度ベクトルgに関しては,

(7)g=(00g)

となり, 角速度ベクトルΩに関しては,

(8)Ω=(Ωcosλ0Ωsinλ)

となる(ただし, λは北緯である). そして, 自由落下を考えるからv0=0とし, 粒子の最初の位置ベクトルh

(9)h=(00h)

とすれば, (6)より

(10)x=0,(11)y=t33gΩcosλ,(12)z=h+t22g

となる.

自由落下に要する時間は, (12)z=0として,

(13)t=2hg

と求められる. これを(11)に代入して,

(14)y=13(2hg)3/2gΩcosλ

となる. つまり, 自由落下する物体は, 地球の自転によって鉛直方向から(14)の大きさだけそらされる(そして, そのそらされる方向は東である)ことが分かる.

具体例を挙げて考える

以下のように具体的に状況を設定して考えてみよう.

  • 重力加速度は9.8ms2である*1.
  • 東京付近の状況を考える. 東京は北緯35である*2.
  • 自由落下のスタート地点として, 東京スカイツリー天望回廊を考える. 東京スカイツリー天望回廊の高さは4.5×102mである*3.
  • 地球の恒星日は8.6×104sである*4から, これを基に角速度を計算すると7.3×105rads1である.

以上を(14)に入れて計算すると, 1.7×101m, つまり約17cmである.

参考文献

Landau, L. D.; Lifshitz, E. M. 力学. 広重徹, 水戸巌訳, 増訂第3版, 東京図書, 1974, 214p.

ちなみに

Picardの逐次近似法に関しては, 多くの常微分方程式の教科書に記載があることと思います. 例として下に挙げておきます.

  • 大谷光春. 理工基礎 常微分方程式論. サイエンス社, 2011, 215p., (ライブラリ新数学体系), ISBN 978-4-7819-1273-8.

関連記事

脚注

*1 : Physical Measurement Laboratory of NIST. “CODATA Value: standard acceleration of gravity”. Fundamental Physical Constants from NIST. https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?gn, (accessed 2020-12-05).

*2 : 国土地理院. “都道府県の庁舎及び東西南北端点の経緯度(世界測地系)”. https://www.gsi.go.jp/KOKUJYOHO/CENTER/kendata/zenken.pdf, (参照 2021-02-20).

*3 : 東武鉄道株式会社, 東武タワースカイツリー株式会社. “アウトライン | 東京スカイツリーを知る”. 東京スカイツリー オフィシャルサイト. https://www.tokyo-skytree.jp/about/outline/, (参照 2021-02-20).

*4 : 日本天文学会. “恒星日”. 天文学辞典. 2019-01-07. https://astro-dic.jp/sidereal-day/, (参照 2021-02-20).

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