【日本語で解説】シンクロトロン放射のまとめ

投稿日:  更新日:2022/09/02

数学 相対性理論 物理学

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シンクロトロン放射とは, 光速に近い速度の荷電粒子が磁力線の周りを円運動しながら進むときに放出される電磁波のことである. ここでは, シンクロトロン放射のスペクトルの導出を行う.

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速度を持った荷電粒子による電磁場生成

Liénard-Wiechertポテンシャル

  • Liénard-Wiechertポテンシャル(Liénard-Wiechert potential):点電荷の運動によって生じる古典的な電磁場を記述する, Lorentzゲージにおけるポテンシャル.
  • 電荷eを持った点電荷の運動の軌跡をr0(t)で与えると, 電荷密度ρ, 電流密度j
    (1)ρ(r,t)=eδ(rr0(t)),(2)j(r,t)=er˙0(t)δ(rr0(t)),(3)r˙0(t)=dr0(t)dt
    のようになる(自分自身の作り出す電場や磁場の影響を受けないと仮定している).
  • 遅延ポテンシャルは
    (4)ϕ(r,t)=ρ(r,t|rr|/c)|rr|d3r,(5)A(r,t)=1cj(r,t|rr|/c)|rr|d3r
    で与えられ, これに電荷密度ρ, 電流密度jを代入すれば, 荷電粒子の作る電磁場を求めることができる.
    • ε0:真空中の誘電率.
    • μ0:真空中の透磁率.
    • 遅延ポテンシャルは, 例えば位置rにおける電荷素片ρ(r,t|rr|/c)d3r*1位置rに作り出すスカラーポテンシャルが
      (6)ρ(r,t|rr|/c)|rr|d3r
      であることを示しており, これを全rで積分したものが, 位置rに作り出すスカラーポテンシャルであることを意味している.
  • スカラーポテンシャルに関して計算すると,
    ϕ(r,t)=eδ(rr0(t|rr|/c))|rr|d3r=edtd3rδ(rr0(t))δ(tt|rr|/c)|rr|(7)=edt1|rr0(t)|δ(tt|rr0(t)|c)
    となる.
  • (7)t積分をするために, 新たな時間変数t
    (8)t=tt+R(r,t)c
    のように定義して変数変換する.
    • R(r,t)=rr0(t)
    • R(r,t)=|rr0(t)|
    • n(r,t):時刻tの荷電粒子から位置rに向かう単位ベクトル,
      (9)n(r,t)=R(r,t)R(r,t)=rr0(t)|rr0(t)|.
    • β(t):光速で規格化した荷電粒子の速度,
      (10)β(t)=r˙0(t)c.
    • dt
      dt=(1+1cdR(r,t)dt)dt(11)=(1n(r,t)β(t))dt
      と書ける. 荷電粒子の速度r˙0(t)は光速を超えないので|β(t)|<1が保証され, このことによってttの単調関数となる. したがって, tの積分範囲もとなり, t=0を満たすtも一意に決まる.
  • ここまでの結果を用いて式(7)の積分を実行すると,
    (12)ϕ(r,t)=edtδ(t)κ(r,t)R(r,t)=eκ(r,tret)R(r,tret)
    となる(Liénard-Wiechertスカラーポテンシャル).
    • κ(r,t)=1n(r,t)β(t)
    • tret:次の方程式の解で定義される遅延時間,
      (13)tret=tR(tret)c.
  • ベクトルポテンシャルに対する計算結果も同様になり,
    (14)A(r,t)=eβ(tret)κ(r,tret)R(r,tret)
    となる(Liénard-Wiechertベクトルポテンシャル).

速度場・輻射場

  • Liénard-Wiechertポテンシャルを
    (15)E(r,t)=ϕ(r,t)1cA(r,t)t,(16)B(r,t)=×A(r,t)
    に代入すれば, 対応する電磁場が求まると考えられる. しかし, 以下の理由により, 偏微分を行う際には注意する必要がある.
    • ϕ, Atretで書かれてしまっているため.
    • tretは式(13)よりt, rに依存するため.
  • あらかじめ, この後出てくる量を計算しておく:
    (17)(R(r,tret)r)=I(単位テンソル),(18)R(r,tret)tret=r˙0(tret)=cβ(tret),(19)(R(r,tret)r)=R(r,tret)R(r,tret)(R(r,tret)r)=n(r,tret),(20)R(r,tret)tret=R(r,tret)R(r,tret)R(r,tret)tret=cn(r,tret)β(tret),(n(r,tret)r)=1R(r,tret)(R(r,tret)r)+R(r,tret)(1R(r,tret)r)=IR(r,tret)n(r,tret)R(r,tret)(R(r,tret)r)(21)=IR(r,tret)n(r,tret)n(r,tret)R(r,tret),n(r,tret)tret=1R(r,tret)R(r,tret)tret+R(r,tret)1R(r,tret)tret=cβ(tret)R(r,tret)n(r,tret)R(r,tret)R(r,tret)tret(22)=cβ(tret)R(r,tret)+cn(r,tret)(n(r,tret)β(tret))R(r,tret),(κ(r,tret)r)=(n(r,tret)r)β(tret)(23)=β(tret)R(r,tret)+n(r,tret)(n(r,tret)β(tret))R(r,tret),κ(r,tret)tret=n(r,tret)tretβ(tret)n(r,tret)β(tret)tret(24)=cβ2(tret)R(r,tret)c(n(r,tret)β(tret))2R(r,tret)n(r,tret)β˙(tret).
    • でのr微分は陽に含まれるものを表す.
  • tの偏微分の変換式として
    (25)t=1κ(r,tret)tret
    が得られる.
    • tの偏微分は
      (26)t=tretttret
      のようになる(tに陽に依存する項はない).
    • (13)の両辺をtで微分すると
      trett=11cR(r,tret)trettrett(27)=1+n(r,tret)β(tret)trett
      となり, これを整理すると
      (28)trett=1κ(r,tret)
      となる.
  • rの偏微分の変換式として
    (29)r=(r)n(r,tret)cκ(r,tret)tret
    が得られる.
    • rの偏微分は
      (30)r=(r)+tretrtret
      のようになる.
    • (13)の両辺をrで微分すると
      tretr=1c(R(r,tret)r+R(r,tret)trettretr)(31)=1c(n(r,tret)cn(r,tret)β(tret)tretr)
      となり, これを整理すると
      (32)tretr=n(r,tret)cκ(r,tret)
      となる.
  • あらかじめ, この後出てくる量を計算しておく:
    (κ(r,tret)R(r,tret)r)=(κ(r,tret)r)R(r,tret)+κ(r,tret)(R(r,tret)r)=β(tret)+n(r,tret)(n(r,tret)β(tret))+κ(r,tret)n(r,tage)(33)=n(r,tage)β(r,tage),
    κ(r,tret)R(r,tret)tage=κ(r,tret)tageR(r,tret)+κ(r,tret)R(r,tret)tage=cβ2(tret)c(n(r,tret)β(tret))2R(r,tret)n(r,tret)β˙(tret)cκ(r,tret)n(r,tret)β(r,tret)(34)=cβ2(tret)cn(r,tret)β(tret)R(r,tret)n(r,tret)β˙(tret).
  • ϕを計算すると(ϕの表式は式(12)を参照)*2,
    ϕ=(ϕr)+ncκϕtret=eκ2R2((κR)r)encκ3R2(κR)tret=e(nβ)κ2R2enβ2κ3R2+en(nβ)κ3R2+en(nβ˙)cκ3R(35)=e(nβ)en(ββ)+eβ(nβ)κ3R2+en(nβ˙)cκ3R
    となる.
  • 1cAtを計算すると(Aの表式は式(14)を参照),
    1cAt=ecκ(tretβκR)=eβcκ3R2(κR)treteβ˙cκ2R=eβ(cβ2cnβR(nβ˙))cκ3R2eβ˙cκ2R(36)=eβ(ββ)eβ(nβ)κ3R2+eβ˙(nβ)eβ(nβ˙)eβ˙cκ3R
    となる.
  • (35), (36)より, 生じる電場E
    (37)E(r,t)=e(n(r,tret)β(tret))(1β2(tret))κ3(r,tret)R2(r,tret)+en(r,tret)×((n(r,tret)β(tret))×β˙(tret))cκ3(r,tret)R(r,tret)
    となる.
    • 計算過程は
      E=e(nβ)(nβ)(ββ)κ3R2+e(n(nβ˙)β(nβ˙)β˙+β˙(nβ))cκ3R=e(nβ)(1β2)κ3R2+e(n×(n×β˙)n(β×β˙))cκ3R(38)=e(nβ)(1β2)κ3R2+en×((nβ)×β˙)cκ3R
      のようになる.
    • nn=1およびベクトル解析の公式
      (39)A×(B×C)=(AC)B(AB)C
      を用いた.
  • (r×A)を計算すると,
    (r×A)=e(r1κR)×β=βκ2R2×((κR)r)=β×(nβ)κ2R2=n×βκ2R2(40)=(nβ)n×βn×βκ3R2
    となる.
    • ベクトル解析の公式
      (41)×fA=f×A+f×A
      を用いた.
  • (40)より, 生じる磁場B
    (42)B(r,t)=n(r,tret)×E(r,t)
    となる.
    • 計算過程は
      B=×A=(r×A)ncκ×Atret=(nβ)n×βn×βκ3R2+nκ×eβ(ββ)eβ(nβ)κ2R2nκ×eβ(nβ˙)+eβ˙eβ˙(nβ)cκ2R=n×e(nβ)(1β2)κ3R2+n×en×((nβ)×β˙)κ3R(43)=n×E
      のようになる.
    • β×β=0, nn=1およびベクトル解析の公式(39)を用いた.
  • (37)の第1項は速度場, 第2項は輻射場と呼ばれる.
  • 速度場の特徴は以下の通りである:
    • 強度は(荷電粒子と観測者との)距離の2乗に反比例して減少する.
    • 荷電粒子が静止しているとき, 電場はCoulombの法則と一致し, 磁場はゼロになる.
  • 輻射場の特徴は以下の通りである:
    • 荷電粒子が加速度をもつときのみ存在する.
    • 強度は(荷電粒子と観測者との)距離に反比例して減少する.
    • 電場, 磁場の向きはnと直交する. 伝播方向はnである.
  • ニアーゾーン(near zone):荷電粒子の近くの, 速度場が卓越する領域.
  • ファーゾーン(far zone):荷電粒子から十分離れた, 輻射場が卓越する領域.
  • ファーゾーンではPoyntingベクトルが
    (44)S(r,t)=c4πE(r,t)×B(r,t)=e24π|n×((nβ)×β˙)|2κ6R2n
    となる.
    • 荷電粒子を取り囲む十分遠方の閉曲面Σから輻射場によって持ち出される単位時間あたりのエネルギー量は
      (45)Σ|S|R2R2=一定
      で, 荷電粒子から閉曲面までの距離によらず一定である.
      輻射場は無限遠方に電磁場のエネルギーを持ち運べる.
      この性質ゆえ, 輻射場あるいは電磁波と呼ばれる.
  • Eの輻射場の非相対論的極限|β|1は,
    (46)E(r,t)en(r,tret)×(n(r,tret)×v˙(tret))c2R(r,tret)
    となる.

輻射場のFourierスペクトル

  • 輻射場によって持ち出される単位時間, 単位面積あたりのエネルギー量:
    (47)dWdtdA=|S|=c4πE2(r,t).
  • 輻射場によって持ち出される単位面積あたりのエネルギー量:
    (48)dWdA=c4πdtE2(r,t).
  • 輻射場E(r,t)をFourier変換して
    (49)E(r,ω)=dtE(r,t)
    とする*3と, Parsevalの公式から
    (50)dWdA=c2dω|E(r,ω)|2
    となる. このことから, 輻射場によって持ち出される単位周波数, 単位面積あたりのエネルギー量は
    (51)dWdAdω=c2|E(r,ω)|2
    となる.
  • 輻射場のFourier変換は, 式(37)の輻射場の項をFourier変換することによって, 次のように与えられる:
    (52)E(r,ω)=ecdtn(r,t)×((n(r,t)β(t))×β˙(t))κ(r,t)R(r,t)eiωt.
    • 全時間で積分をするので, 被積分関数の引数はtで記述している.
  • 以下を仮定する:
    • 観測者が荷電粒子から十分離れていてその変化が無視できるほど小さいとし, R(r,t), n(r,t)=(rr0(t))/R(r,t)の時間変化は無視する.
    • 積分変数ttret=tR(tret)/cで定められる変数tretに書き換える. その際,
      (53)dt=κ(tret)dtret
      に注意する.
    • これ以降, 引数としてのrはさほど重要ではないので, 省略する.
  • すると, 以下の式を得る:
    (54)E(r,ω)=ecReiωnr/cdtretn×((nβ(tret))×β˙(tret))κ2(tret)eiω(tretnr0(tret)/c).
  • さらに, 部分積分を実行することにより, 以下の式を得る:
    (55)E(r,ω)=ieωcReiωnr/cdtretn×(n×β(t))eiω(tretnr0(tret)/c).
    • 部分積分には, 以下の式を用いる:
      ddt(n×(n×β(t))κ(t))=n×(n×β˙(t))κ(t)n×(n×β(t))κ2(t)dκ(t)dt=n×(n×β˙(t))(1nβ(t))κ2(t)+n×(n×β(t))(nβ˙(t))κ2(t)=n×(n×β˙(t))+n×(n×(nβ˙(t))β(t)(nβ(t))β˙(t))κ2(t)=n×(n×β˙(t))+n×(n×(n×(β(t)×β˙(t))))κ2(t)=n×(n×β˙(t))+(n(n×(β(t)×β˙(t))))n(nn)(n×(β(t)×β˙(t)))κ2(t)=n×(n×β˙(t))(n×(β(t)×β˙(t)))κ2(t)(56)=n×((nβ(t))×β˙(t))κ2(t).
    • 計算過程は, 以下のようになる:
      E(r,ω)=ecReiωnr/c[n×(n×β(tret))κ(tret)eiω(tretnr0(tret)/c)]ecReiωnr/cdtretn×(n×β(tret))κ(tret)(iω(1nβ(tret)))eiω(tretnr0(tret)/c)(57)=ieωcReiωnr/cdtretn×(n×β(t))eiω(tretnr0(tret)/c).
    • 荷電粒子の軌道r0(t)を式(55)に代入すれば, その荷電粒子から放射される輻射場のスペクトルが求められる.

サイクロトロン放射

  • サイクロトロン放射(cyclotron radiation):磁場中を(非相対論的)荷電粒子(主に電子, 以下は電子の場合を考える)がLorentz力を受けて運動することにより, 電磁波を放射するメカニズムの名前. ジャイロ放射(gyro radiation)とも. [1]
  • 初期設定(図1)
    • z軸正の方向に貫く一様磁場Bが存在するとする.
    • 電子はz=0の平面内に存在する.
    • 電子の初速度をt=0(vx,vy,vz)=(0,v0,0)とする.
    図1 サイクロトロン放射の初期設定.
  • このときの電子の運動方程式は
    (58)medvdt=ecv×B
    となり*4, 成分ごとに表示すれば
    (59)medvxdt=eBcvy,(60)medvydt=eBcvx
    となる.
  • 方程式(59), (60)は, 例えば以下のようにして解くことができる.
    • 方程式(59), (60)を連立微分方程式として行列形式で表すと,
      meddt(vxvy)=eB(0110)(vxvy)(61)=eB(ii11)(i00i)(i212i212)(vxvy)
      となり, つまり
      (62)meddt(i212i212)(vxvy)=eB(i00i)(i212i212)(vxvy)
      となる

      *5:.

    • (62)を解くと, C1, C2を任意定数として,
      (63)i2vx+12vy=C1eieBmect,(64)i2vx+12vy=C2eieBmect
      となる. vx, vyに関して整理すれば,
      (65)vx=i(C1eieBmectC2eieBmect),(66)vy=C1eieBmect+C2eieBmect
      となる.
    • t0においてvx=0, vy=v0であることから,
      (67)C1=v02=C2
      となる. 式(67)を式(65), (66)に代入して,
      (68)vx=iv02(eieBmecteieBmect)=v0sin(eBmect),(69)vy=v02(eieBmect+eieBmect)=v0cos(eBmect)
      となる.
  • (68), (69)における周波数
    (70)ωce=eBmec
    サイクロトロン周波数(cyclotron frequency)と呼ばれる.
    • Hzで計算すると,
      (71)νce=2.8(B106G)Hz
      となる.
  • 求めたv(式(68), (69))を式(59), (60)に代入すると,
    (72)medvxdt=ev0Bccosωcet,(73)medvydt=ev0Bcsinωcet
    となる. つまり, 電子の加速度ベクトルv˙
    (74)v˙=ev0Bmecexcosωcetev0Bmeceysinωcet
    のように書ける.
  • 考えている系は軸対称であるから, z軸となす角θnの方向に散乱される電磁波を考える. nyz平面内にあるとする:
    (75)n=eysinθ+ezcosθ.
  • ここでは非相対論的な荷電粒子を考えているから, 式(46)に式(74), (75)を代入して,
    (76)E(r,t)=ec2R(r,tret)(a1cosωcet+a2cosθcos(ωcetπ/2))
    となる.
    • a1=ex:散乱波の偏光ベクトル1つ目.
    • a2=eycosθ+ezsinθ:散乱波の偏光ベクトル2つ目.
  • サイクロトロン放射:ω=ωceの単色の電磁波を放射.
    • 星間磁場等の宇宙の希薄プラズマ中の磁場:約106G *6.
    • サイクロトロン周波数は非常に低く, 観測にかかることはない.

シンクロトロン放射

シンクロトロン放射の概要

  • シンクロトロン放射(synchrotron radiation):光速に近い速度の荷電粒子(主に電子, 以下は電子の場合を考える)が磁力線の周りを円運動しながら進むときに放出される電磁波. [3]
  • 初期設定は図1と同様にする.
  • 光速に近い速度の電子を考えるので, 相対論的に考えなければならない.
    • ημν=diag(1,1,1,1):Minkowski計量.
    • γ=1/1v2/c2:Lorentz因子(Lorentz factor).
    • dτ=dt/γ:固有時(proper time).
    • uμ=(γc,γv):相対論的な4元速度.
    • pμ=meuμ=(mγc,mγv):相対論的な4元運動量.
    • 4元力Fμを用いて, 相対論的な4元運動方程式は
      (77)dpμdτ=Fμ
      と書ける.
    • 相対論的な電磁気学では, 電磁場テンソル(electromagnetic field tensor)
      (78)(fμν)=(0ExEyEzEx0BzByEyBz0BxEzByBx0)
      が用いられ, これを用いるとLorentz力は
      (79)Fμ=eημνfνλuλ
      と書ける.
    • 以上から, 電磁場中を運動する電子の相対論的な運動方程式は
      (80)ddt(γmec2)=eEv,(81)ddt(γmev)=eEecv×B
      と書ける.
  • 今の場合, 一様磁場であるから,
    (82)ddt(γmec2)=0,(83)ddt(γmev)=ecv×B
    となる.
  • (82)より, γ=一定となり, 電子のエネルギーが保存することが示される. この事実を用いて式(83)を表すと,
    (84)dvdt=eγmecv×B
    となる.
  • サイクロトロン放射の場合と同様に考えれば, 電子は角周波数
    (85)ωse=eBγmec
    の回転運動をすることがわかる(シンクロトロン周波数(synchrotron frequency)).
    • Hzで計算すると,
      (86)νse=2.8(B106G)(γ1)1Hz
      となる.

シンクロトロン放射のスペクトル

  • シンクロトロン放射のスペクトルを求めるために, Fourier級数展開することにする.
    • 電子の運動が周期2π/ωseの周期運動であるから, Fourier級数展開をするのが適当である.
  • (55)においてeeとして, またFourier級数展開を行うために,
    (87)dtret=ωse2π02π/ωsedtret
    とすることによって, 以下の式を得る:
    (88)E(r,ω)=ieωωse2πcReiωnr/c02π/ωsedtretn×(n×β(tret)))einωse(tretnr0(tret))
    • Fourier級数展開を行うので, ω=nωseとしている.
  • 今の場合の初期設定では,
    (89)n=eysinθ+ezcosθ,(90)v(t)=v0exsinωset+v0eycosωset,(91)r0(t)=v0ωsecosωset+v0ωsesinωset
    となるから,
    (92)nr0(t)c=v0ωsecsinθsinωset,n×(n×β(t))=(nβ(t))n(nn)β=v0cexsinωset+v0c(sin2θ1)eycosωset+v0cezsinθcosθcosωset(93)=v0cexsinωsetv0ccos2θeycosωset+v0cezsinθcosθcosωset
    となる.
  • 上記から, 輻射場のスペクトル(55)x成分, y成分, z成分を計算すると, 以下のようになる:
    Ex(r,ω)=ieωωsev02πc2Reiωnr/c02π/ωsedtretsinωsetreteinωsetret+inωsev0ωsecsinθsinωsetret(94)=ineωsev02πc2Reiωnr/c02πdφeinφ+inv0csinθsinφsinφ,Ey(r,ω)=ieωωsev02πc2Reiωnr/ccos2θ02π/ωsedtretcosωsetreteinωsetret+inωsev0ωsecsinθsinωsetret(95)=ineωsev02πc2Reiωnr/ccos2θ02πdφeinφ+inv0csinθsinφcosφ,Ez(r,ω)=ieωωsev02πc2Reiωnr/csinθcosθ02π/ωsedtretcosωsetreteinωsetret+inωsev0ωsecsinθsinωsetret(96)=ineωsev02πc2Reiωnr/csinθcosθ02πdφeinφ+inv0csinθsinφcosφ.

Bessel関数を用いて整理されたシンクロトロン放射のスペクトル

  • (94), (95), (96)をさらに整理するために, Bessel関数(Bessel function)Jn(z)を用いる.
    • Bessel関数は, 以下のBesselの微分方程式
      (97)z2d2Jn(z)dz2+zdJn(z)dz+(z2n2)Jn(z)=0
      の解である. n=0,1,2,3の場合のBessel関数Jn(z)を図2に示す.
    • n:任意の整数(Bessel関数の次数と呼ばれる)*7.
    • 図2 n=0,1,2,3の場合のBessel関数Jn(z).
  • Besselの積分表示:
    (98)Jn(z)=1π0πdφcos(nφzsinφ)=12π02πdφeinφeizsinφ.
    • cosexpに変換すると,
      Jn(z)=1π0πdφcos(nφzsinφ)=12π0πdφ(ei(nφzsinφ)+ei(nφzsinφ))(99)=12π0πdφ(einφeizsinφ+einφeizsinφ)
      となる.
    • ここで, φφ, φφ+2πの変数変換を行えば,
      12π0πdφeinφeizsinφ=12π0π(dφ)einφeizsinφ=12ππ0dφeinφeizsinφ=12ππ2πdφein(φ+2π)eizsin(φ+2π)(100)=12ππ2πdφeinφeizsinφ
      となるから,
      Jn(z)=12ππ2πdφeinφeizsinφ+12π0πdφeinφeizsinφ(101)=12π02πdφeinφeizsinφ
      となる.
    • (101)において, Jn(z)zで微分すると,
      Jn(z)=dJn(z)dz=12π02πdφeinφdeizsinφdz(102)=i2π02πdφeinφeizsinφsinφ
      であるから,
      (103)λn=nv0csinθ
      を用いれば,
      (104)02πdφeinφ+iλnsinφsinφ=2πiJn(λn)
      となる.
    • (101)において, 部分積分を用いると,
      Jn(z)=12π02πdφ(einφin)eizsinφ=[einφineizsinφ]02π02πdφeinφineizsinφizcosφ(105)=zn02πeinφ+izsinφcosφ
      であるから, 式(103)を用いれば,
      (106)02πdφeinφ+izsinφcosφ=2πcJn(λn)v0sinθ
      となる.
  • (94), (104)より
    (107)Ex(r,ω)=ineωsev02πc2Reiωnr/c(2πiJn(λn))=neωsev0Jn(λn)c2Reiωnr/c
    となり, 式(95), (106)より
    (108)Ey(r,ω)=ineωsev02πc2Reiωnr/ccos2θ2πcJn(λn)v0sinθ=ineωseJn(λn)cReiωnr/ccos2θsinθ
    となり, 式(96), (106)より
    (109)Ez(r,ω)=ineωsev02πc2Reiωnr/csinθcosθ2πcJn(λn)v0sinθ=ineωseJn(λn)cReiωnr/ccosθ
    となる.
  • (51), (107), (108), (109)より, 輻射場によって持ち出される単位周波数, 単位面積あたりのエネルギー量は
    dWdAdω=c2|E(r,ω)|2=n2e2ωse22cR2(v02c2Jn2(λn)+(cos4θsin2θ+cos2θ)Jn2(λn))(110)=n2e2ωse22cR2(v02c2Jn2(λn)+(1sin2θ1)Jn2(λn))
    となる.
  • (110)を面積に関して積分することにより, 輻射場によって持ち出される単位周波数あたりのエネルギー量は
    dWdω=n2e2ωse22c0πdθ(v02c2Jn2(λn)+(1sin2θ1)Jn2(λn))sinθ(111)=2n2e2ωse2c0π/2dθ(v02c2Jn2(λn)+(1sin2θ1)Jn2(λn))sinθ
    となる.
  • (111)をBessel関数の性質を用いて変形すると, 以下の式を得る:
    (112)dWdω=2e2ωse2v0(nv02c2J2n(2nv0c)+n2(v02c21)0v0/cdξJ2n(2nξ)).
    • Bessel関数に関する性質:
      (113)0π/2dθJn2(λn)sinθ=c2nv002nv0/cdtJ2n(t)=cv00v0/cdξJ2n(2nξ).
    • Bessel関数に関する漸化式:
      (114)Jn(z)=12(Jn1(z)Jn+1(z)),(115)Jn(z)=z2n(Jn1(z)+Jn+1(z)).
    • Bessel関数の微分(n1):
      Jn(z)=1π0πdφddzcos(nφzsinφ)(116)=1π0πdφsin(nφzsinφ)sinφ,Jn(0)=1π0πdφsinnφsinφ=12π0πdφ(cos(nφφ)cos(nφ+φ))=12π[1n1sin(n1)φ1n+1sin(n+1)φ]0π(117)=0.
    • (113), (114), (115), (117)を用いれば,
      v02c20π/2dθJn2(λn)sinθ=v024c20π/2dθ(Jn1(λn)Jn+1(λn))2sinθ(118)=v024c20π/2dθ(Jn12(λn)2Jn1(λn)Jn+1(λn)+Jn+12(λn))sinθ
      となり,
      0π/2dθ(1sin2θ1)Jn2(λn)sinθ=0π/2dθ(n2v02c2λn21)Jn2(λn)sinθ=0π/2dθ(n2v02c2λn2λn24n2(Jn1(z)+Jn+1(z))2Jn2(z))sinθ(119)=0π/2dθ(v024c2(Jn1(z)+Jn+1(z))2Jn2(z))sinθ
      となるから,
      0π/2dθ(v02c2Jn2(λn)+(1sin2θ1)Jn2(λn))sinθ=0π/2dθ(v024c2(2Jn12(λn)+2Jn+12(λn))Jn2(λn))sinθ=0π/2dθ(v022c2(Jn12(λn)2Jn2(λn)+Jn+12(λn))+(v02c21)Jn2(λn))sinθ=cv00v0/cdξ(v022c2(J2(n1)2(2nξ)2J2n2(2nξ)+J2(n+1)2(2nξ))+(v02c21)J2n2(2nξ))=cv00v0/cdξ(v022c2(J(2n1)12(2nξ)J(2n1)+12(2nξ)J(2n+1)12(2nξ)+J(2n+1)+12(2nξ))+(v02c21)J2n2(2nξ))=cv00v0/cdξ(v02c2(J2n1(2nξ)J2n+1(2nξ))+(v02c21)J2n2(2nξ))=cv0(v02c212n[J2n1(2nξ)J2n+1(2nξ)]0v0/c+(v02c21)0v0/cdξJ2n(2nξ))=cv0(v022nc2(J2n1(2nv0c)J2n+1(2nv0c)J2n1(0)+J2n+1(0))+(v02c21)0v0/cdξJ2n(2nξ))=cv0(v02nc2(J2n(2nv0c)J2n(0))+(v02c21)0v0/cdξJ2n(2nξ))(120)=cv0(v02nc2J2n(2nv0c)+(v02c21)0v0/cdξJ2n(2nξ))
      となる.

超相対論的な場合のシンクロトロン放射のスペクトル

  • 超相対論的な場合には, 放射のスペクトル分布も特徴的な性格を持つ. 具体的には, 式(112)を変形して以下のような式が得られる:
    (121)dWdω=2e4B2πme2c3un(Φ(un)un2unduΦ(u)).
    • Φ(u): Airy関数(Airy function). 次のAiry方程式
      (122)d2Φ(u)du2uΦ(u)=0
      の解となる. Airy関数Φ(u)を図3に示す.
    • 図3 Airy関数Φ(u).
    • un=n2/3(1v02/c2)
    • u=n2/3(1ξ2)
    • 可能なところではv0/c=1で置き換えている.
    • Bessel関数に関する以下の漸近公式(n1, 1ξ1)
      (123)J2nξ1πn1/3Φ[n2/3(1ξ2)]
      を用いている. 積分範囲には1に近くないξも含まれているが, ξが小さい(ξ+0の意味で)範囲ではBessel関数J2n(2nξ)0に急速に近づくため, 漸近公式を使うことが許される.
    • 積分範囲は(un,n2/3)であるが, n1であり, またuが大きい範囲ではAiry関数Φ(u)0に急速に近づく*8ため, 積分上限を無限大で置き換えている.
    • dξduに変換する際に
      (124)du=2n2/3ξdξ
      となってしまう. しかし, ξ
      (125)ξ=1un2/3
      であるからuが小さい範囲ではξ1であり, またuが大きい範囲ではそもそもAiry関数Φ(u)0に急速に近づくため, ξ1としてもよい. ゆえに,
      (126)du=2n2/3dξ
      として計算している.
  • u0のとき, 式(121)の括弧の中の関数は定数の極限Φ(0)に近づく. したがって, u1に関しては
    (127)dWdω=2e4B2Φ(0)πme2c31v02c2n1/3,1n(1v02c2)3/2
    が得られる.
  • u1に対してはAiry関数に対する漸近公式
    (128)Φ(u)e23u3/22πu1/4
    を用いて,
    (129)dWdω=n1/2e4B2πme2c3(1v02c2)5/4exp[23n(1v02c2)3/2],n(1v2c2)3/2
    が得られる.
  • (127), (129)より, スペクトルは
    (130)n(1v2c2)3/2
    付近で極大を持ち, シンクロトロン放射の大部分は
    (131)ωωse(1v2c2)3/2=eBmec(1v2c2)1
    であるような振動数の領域に集中している.
    • (131)ωωseに比べて(超相対論的な場合には)十分大きい.
      このスペクトルは, 非常に多くの隣接した線からできている.
      連続的な性格を持つ.
  • 数値計算のために, 式(121)は以下のようによく変形される:
    (132)dWdω=3e4B22π2/3me2c3χχdχK5/3(χ)
    • 連続的な性格を持つことを強調するため, 離散的なものを表す添え字nは省略している. χω=nωseで書き表すことができるため, 右辺はωの関数である.
    • Kν(z)変形Bessel関数(modified Bessel function). 以下の微分方程式
      (133)z2d2Jn(z)dz2+zdJn(z)dz(z2+n2)Jn(z)=0
      の解である.
    • 正のu>0に対して, Airy関数は変形Bessel関数と
      (134)Φ(u)=1πu3K1/3(2u3/23),(135)Φ(u)=u3πK2/3(2u3/23)
      の関係がある.
    • 変形Bessel関数を用いて式(121)を書き直すと, 以下のようになる:
      dWdω=2e4B2πme2c3u(u3πK2/3(2u3/23)u2udu1πu3K1/3(2u3/23))(136)=2e4B23π2/3me2c3u2/3(K2/3(2u3/23)12uduuK1/3(2u3/23))
      となる.
    • limzK2/3(z)=0であるから,
      (137)dWdω=3e4B2π2/3me2c3χ(K2/3(χ)12χdχK1/3(χ))
      となる.
    • 変形Bessel関数に関してもBessel関数に関する漸化式(114)と似た漸化式
      (138)Kν(z)=12(Kν1(z)+Kν+1(z))
      および, 変形Bessel関数に関する性質Kν(z)=Kν(z)を用いると,
      dWdω=3e4B22π2/3me2c3χ(χdχ(K1/3(χ)+K5/3(χ))+12χdχK1/3(χ))=3e4B22π2/3me2c3χ(χdχ(K1/3(χ)+K5/3(χ))+12χdχK1/3(χ))(139)=3e4B22π2/3me2c3χχdχK5/3(χ)
      となる.
  • ここで,
    (140)F(χ)=χχdχK5/3(χ)
    として, 関数F(χ)のグラフを描くと, 図4のようになる.
  • 図4 関数F(χ)のグラフ.
    • ω0.29ωcの当たりで放射される電磁波のエネルギーが最大になる.
    • ωc臨界周波数(critical frequency)と呼ばれる周波数,
      (141)ωc=32ωseγ3=0.42(γ104)2(B106G)GHz
    • 臨界周波数は, 電子のエネルギー(直接的にはγ)に応じて電波(およそ103GHz以下)からX線(およそ107-1010GHz)までに及ぶ.

参考文献

該当の部分には[ ]付きで示しています.

  1. 日本天文学会. “サイクロトロン放射”. 天文学辞典. 2018-03-06. https://astro-dic.jp/cyclotron-radiation/, (参照 2022-03-09).
  2. 日本天文学会. “星間磁場”. 天文学辞典. 2018-04-18. https://astro-dic.jp/interstellar-magnetic-field/, (参照 2022-03-09).
  3. 日本天文学会. “シンクロトロン放射”. 天文学辞典. 2018-04-12. https://astro-dic.jp/synchrotron-radiation/, (参照 2022-03-09).
  4. github-nakasho. “シンクロトロン放射”. 宇宙物理メモ. https://github-nakasho.github.io/astroelec/sync_spectrum, (参照 2022-03-09).
  5. Landau, L. D., Lifshitz, E. M. 場の古典論:電気力学, 特殊および一般相対性理論. 恒藤敏彦, 広重徹訳. 原書第6版, 東京図書, 1978, p.221-226, (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程, 2), ISBN 978-4-489-01161-0.
  6. 砂川重信. 理論電磁気学. 第3版, 紀伊國屋書店, 1999, p.273-292, ISBN 978-4-314-00854-9.
  7. 服部誠. “宇宙電磁気学:輻射の生成・散乱過程の基礎”. 2020-06-22. https://www.astr.tohoku.ac.jp/~hattori/hattori_radipro.pdf, (参照 2022-03-09).

脚注

*1:時刻に関しても, t|rr|/cで評価されなければならない. これは, 電荷密度の影響が光速で伝播することを表している.

*2:以降, しばらくの間引数r, tretは省略される.

*3E(r,t)E(r,ω)は関数形としては異なるので, 厳密にはEの文字を変える(例えば, E(r,t)E^(r,ω)のように)必要がある. ここでは簡単のため, この2つのEを混用する.

*4:cgs-Gauss単位系であることに注意せよ.

*5:ただし, 次の行列

(142)(ii11),(i212i212)

は, 互いに逆行列の関係にあることに注意せよ.

*6:太陽系近傍と同様な空間であれば, 星間磁場は平均的に数マイクロガウス程度の強度を持つと考えられている. [2]

*7:一般に, Bessel関数は次数が実数の場合にも定義される.

*8:Airy関数の漸近公式(128)によれば, おおよそexpで.