誤差の伝播法則

投稿日:  更新日:2022/09/02

数学 物理学

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誤差というのは一般に, 実験や観測, データの処理などで生じる, 測定値と真の値の差のことをいいます. ここでは, 複数の物理量から新たな物理量を得る際に問題になる, 誤差を含む値同士の足し算, 引き算, かけ算, 割り算など(誤差の伝播)について紹介します.

間接測定

物理量の測定においては, 直接その物理量を求める場合のほかに, 複数の物理量の測定から1つの物理量を求める場合があります. ここでは, その複数の物理量は独立している(互いに影響を与えない)とします.

例えば, ある長方形の面積Sは, 縦の長さxと横の長さyを測定すれば, S=S(x,y)=xyのように求めることができます. xyを測定した際にそれらの標準偏差がσx, σyのように独立に求められている場合, S=S(x,y)の標準偏差はどのように求められるのでしょうか.

誤差の伝播

このようなことを考える際に, 誤差の伝播(Error Propagation)という考え方が必要になってきます.

誤差の伝播式

ある物理量Aと, 独立な物理量X,Y,Z,を考える. それらの測定値aおよびx,y,z,との関係は, a=a(x,y,z,)で与えられるとする. また, 登場する各物理量の真の値をAmおよびXm,Ym,Zm,のように表す. このとき誤差の伝播式(つまり, Aの標準偏差σaおよびσx,σy,σz,の間にある関係)は

(1)σa=(ax|x=Xmσx)2+(ay|y=Ymσy)2+(az|z=Zmσz)2+

となる.

以下, 登場する各物理量の誤差をϵaおよびϵx,ϵy,ϵz,とします.

このとき, 真の値に関する式として

(2)Am=a(Xm,Ym,Zm,)

という式が得られます. また, 測定された物理量に関しては,

(3)Am+ϵa=a(Xm+ϵx,Ym+ϵy,Zm+ϵz,)

と書くことができます. 両者の差を取ると

(4)ϵa=a(Xm+ϵx,Ym+ϵy,Zm+ϵz,)a(Xm,Ym,Zm,)

となります. 誤差が大きくなる頻度は小さいのでTaylor展開を行うと,

(5)ϵa=ax|x=Xmϵx+ay|y=Ymϵy+az|z=Zmϵz+

となります. 両辺を二乗すると,

ϵa2=(ax|x=Xmϵx)2+(ay|y=Ymϵy)2+(az|z=Zmϵz)2+(6)+2ϵxϵyax|x=Xmay|y=Ym+

となります.

さて, 誤差をn回測定して二乗平均を取れば, 分散が得られます. 計算すれば,

iϵa,i2n=iϵx,i2n(ax|x=Xm)2+iϵy,i2n(ay|y=Ym)2(7)+iϵz,i2n(az|z=Zm)2++2iϵx,iϵy,inax|x=Xmay|y=Ym+

となります. しかし, iϵx,iϵy,iのような項に関しては, ϵx,i, ϵy,iは独立に正負の値を取るので, これは結局0としてよいことが分かります. ゆえに,

(8)iϵa,i2n=iϵx,i2n(ax|x=Xm)2+iϵy,i2n(ay|y=Ym)2+iϵz,i2n(az|z=Zm)2+

となります. σaおよびσx,σy,σz,を用いて書き直せば,

(9)σa2=σx2(ax|x=Xm)2+σy2(ay|y=Ym)2+σz2(az|z=Zm)2+

が得られ, 両辺の正の平方根をとれば,

(10)σa=σx2(ax|x=Xm)2+σy2(ay|y=Ym)2+σz2(az|z=Zm)2+

となります. このようにして, 誤差の伝播式を示すことができました.

誤差の伝播式の例

誤差の伝播式の例を, 以下で具体的に見ていきましょう.

定数倍

a(x,y)=nxの場合を考えると(n:定数),

(11)ax=n

となりますので,

(12)σa=nσx

が分かります.

足し算, 引き算

a(x,y)=x±yの場合を考えると,

(13)ax=1,(14)ay=1

となりますので,

(15)σa=σx2+σy2

が分かります.

掛け算, 割り算

a(x,y)=xyの場合を考えると,

(16)ax=y,(17)ay=x

となりますので,

(18)σa=(Ymσx)2+(Xmσy)2

が分かります.

また, a(x,y)=x/yの場合を考えると,

(19)ax=1y,(20)ay=xy2

となりますので,

(21)σa=(σxYm)2+(xσyy2)2

が分かります.

指数関数

a(x)=exの場合を考えると,

(22)ax=ex

となりますので,

(23)σa=eXmσx(=Amσx)

が分かります.

対数関数

a(x)=exの場合を考えると,

(24)ax=1x

となりますので,

(25)σa=σxXm

が分かります.

誤差の伝播式の利用の例

例えば, 次の例を考えてみましょう.

Aさんは, 自身の身長を(1.60±0.01)m, 体重を(57.0±0.5)kgと測定した(±で標準偏差を示している). AさんのBMIとその標準偏差はどうなるだろうか. ただし, BMIは

(26)BMI=体重[kg]身長[m]2

である.

身長をx=Xm+σx=(1.60±0.01)m, 体重をy=Ym+σy=(57.0±0.5)kg, BMIをa=Am+σaとすると,

(27)a=yx2

の関係があります(以下, xyに関する単位は省略します).

(28)ax=2yx3,(29)ay=1x2

となるから,

(30)σa=(2YmXm3σx)2+(1Xm2σy)2

となります. 値を代入して計算すれば,

(31)σa=0.340

となり, 平均値Am=22.3と併せて記述すれば,

(32)a=22.3±0.3

と書けます.

参考文献

  1. Berendsen, Herman J. C. A student's guide to data and error analysis. Cambridge, Cambridge University Press, 2011, p.18-26, ISBN 1-107-08342-7.
  2. こちらの日本語訳もあります.
    Berendsen, Herman J. C. データ・誤差解析の基礎. 林茂雄, 馬場凉訳. 東京化学同人, 2013, 235p., ISBN 978-4-8079-0825-7.
  3. 井上一哉. “誤差論”. 物理学教育部会ホームページ. https://www.edu.kobe-u.ac.jp/iphe-butsuri/pr/img/Inoue-statistics1.pdf, (参照 2022-03-28).
  4. 石島秋彦. “誤差の伝搬法則”. 石島研究室ホームページ. http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/ishijima/gosa-01.html, (参照 2022-03-28).