【日本語で解説】Einstein-Hilbert作用からのEinstein方程式の導出

投稿日:  更新日:2022/09/02

数学 相対性理論 物理学

B!
Chuk YongによるPixabay(https://pixabay.com/)からの画像

Einstein-Hilbert作用は, 一般相対性理論において, 最小作用の原理を通してEinstein方程式を導く作用である. ここでは, Einstein-Hilbert作用を用いてEinstein方程式の導出を行う.

一般相対性理論における作用

一般相対性理論における作用は, Einstein-Hilbert作用(Einstein-Hilbert action)Sgと物質場の作用Smを合わせて

(1)S=Sg+Sm

と書ける. Einstein-Hilbert作用は

(2)Sg=c316πG(R2Λ)gd4x

である. 一方, 物質場の作用は

(3)Sm=1cLgd4x

である(ただし, Lは物質場のLagrangian密度である).

Einstein-Hilbert作用の変分

一旦Einstein-Hilbert作用の変分をとってみる

Einstein-Hilbert作用の変分をとると,

δSg=c316πGδ[(R2Λ)g]d4x(4)=c316πG[gδR+(R2Λ)δg]d4x

となる.

計量テンソルの行列式の変分の計算

δgを計算すると, 行列式に対するLeibnizの明示公式より

δg=δ[detgμν]=δ[ϵμναβg0μg1νg2αg3β](5)=ϵμναβ(δg0μg1νg2αg3β+g0μδg1νg2αg3β+g0μg1νδg2αg3β+g0μg1νg2αδg3β)

となる(ただし, ϵμναβはLevi-Civita記号である). ここで, (5)の第1項に関しては

(6)δμλ=gλσgσμ

を用いることで,

ϵμναβδg0μg1νg2αg3β=ϵμναβ(δμλ)δg0λg1νg2αg3β=ϵμναβ(gλσgσμ)δg0λg1νg2αg3β=ϵμναβ(gλ0g0μ+gλ1g1μ+gλ2g2μ+gλ3g3μ)δg0λg1νg2αg3β=ϵμναβg0μg1νg2αg3βgλ0δg0λ+ϵμναβg1μg1νg2αg3βgλ1δg0λ+ϵμναβg2μg1νg2αg3βgλ2δg0λ(7)+ϵμναβg3μg1νg2αg3βgλ3δg0λ

となる. (7)の第2項, 第3項, 第4項に関して,

  • 第2項:μνの入れ替えに関して反対称な項と対称な項の積
  • 第3項:μαの入れ替えに関して反対称な項と対称な項の積
  • 第4項:μβの入れ替えに関して反対称な項と対称な項の積

であるから, (7)の第2項, 第3項, 第4項は0になる. ゆえに,

ϵμναβδg0μg1νg2αg3β=ϵμναβg0μg1νg2αg3βgλ0δg0λ(8)=ggλ0δg0λ

となる. (5)の第2項, 第3項, 第4項に関しても同様に計算すると,

δg=ggλ0δg0λ+ggλ1δg1λ+ggλ2δg2λ+ggλ3δg3λ(9)=ggληδgλη

となる.

(9)より,

δg=12gδg=12gggμνδgμν(10)=12ggμνδgμν

となる.

Ricciスカラーの変分の計算

Ricciスカラーの変分をとると,

δR=δ(gμνRμν)(11)=Rμνδgμν+gμνδRμν

である. ここで, 逆行列の定義から

δ(δνμ)=δ(gμλgλν)=gηνδgμη+gμλδgλν(12)=0

となるから,

gηνδgμη=gμλδgλν,(13)δgμη=gμλgνηδgλν

となる*1. (11), (13)より,

δR=Rμν(gμλgμσδgλσ)+gμνδRμν=Rλσδgλσ+gμνδRμν(14)=Rμνδgμν+gμνδRμν

となる.

Ricciテンソルの変分の計算

次に, Ricciテンソルの変分を計算する. Ricciテンソルの定義をあらわに書くと,

(15)Rμν=Rλμλν=Γλμν,λΓλμλ,ν+ΓλσλΓσμνΓλσνΓσμλ

である(ただし, ΓαμνはChristoffel記号である).

ここで, Γαμνという量はテンソルではないが, 変分δΓαμνはテンソルであることに注意する. 実際,

(16)δAμ=ΓαμνAαdxν

は, ある点Pからそれに無限に近い点Pへの平行移動によるベクトルAμの変化である*2. したがって, δΓαμνAαdxνは, ある点Pからそれに無限に近い点Pへの平行移動(1つはΓαμνを変えずに, 1つは変えて)によるベクトルAμの2つの変化の差である. 同一点での2個のベクトルの差はベクトルであるから, δΓαμνはテンソルである.

さて, 与えられた点で局所慣性系を用いることにすれば, (15)においてΓαμν=0であるから,

gμνδRμν=gμνδ(Γλμν,λΓλμλ,ν)=gμν(λδΓλμννδΓλμλ)=gμνλδΓλμνgμλλδΓνμν(17)=wλ,λ

となる(ただし, ベクトルwλ

(18)wλ=gμνδΓλμνgμλδΓνμν

である)*3. wλはベクトルであるからこの式はテンソル式であり, 任意の座標系では今得た関係式を

(19)gμνδRμν=wλ;λ

と書くことができる.

また, Christoffel記号をgμνを用いて書くと,

(20)Γαμν=12gαβ(gβμ,ν+gβν,μgμν,β)

となる. 上でανの縮約をとると,

(21)Γνμν=12gνβ(gβμ,ν+gβν,μgμν,β)

となるが, 括弧の中の第1項と第3項で添え字νβの位置を入れ替えれば, これらの項は互いに打ち消しあうから,

(22)Γνμν=12gνβgβν,μ

となる. そして, (9)によって,

(23)Γνμν=g,μ2g=lngxμ

となる. (19), (23)より,

gμνδRμν=wλ;λ=wλ,λ+Γνλνwλ=wλ,λ+lngxλwλ(24)=1g(gwλ)xλ

再度Einstein-Hilbert作用の変分に戻る

(4), (10), (14), (24)より,

δSg=c316πG[g(Rμνδgμν+1g(gwλ)xλ)+(R2Λ)(12ggμνδgμν)]d4x(25)=c316πG[{Rμν+12(R2Λ)gμν}δgμν+(gwλ)xλ]d4x

となる. このうち, 最後の項はGaussの発散定理によって, 4次元の体積全部をとりかこむ超曲面の上に積分に交換される. 積分限界では場の変分は0であるから, この項は落ちてしまう. こうして, 変分δSg

(26)δSg=c316πG[Rμν+12(R2Λ)gμν]δgμνd4x

に等しい.

物質場の作用の変分

物質場の作用の変分をとると, (10)より,

(27)δSm=1cδ(Lg)d4x

となる. エネルギー運動量テンソルは, LagrangianLgμνに関して変分をとることで,

(28)Tμν=2gδ(gL)δgμν

すなわち

(29)Tμν=2gδ(gL)δgμν

と定義されるから,

(30)δSm=12cgTμνδgμνd4x

となる.

Einstein方程式

最終的に,

0=δSg+δSm(31)=c316πG[Rμν+12(R2Λ)gμν+8πGc4Tμν]δgμνd4x

となる. これが任意の変分δgμνに対して成り立つことから, Einstein方程式

(32)Rμν12gμνR+gμνΛ=8πGc4Tμν

を得る.

参考文献

  1. Landau, L. D., Lifshitz, E. M. 場の古典論:電気力学, 特殊および一般相対性理論. 恒藤敏彦, 広重徹訳. 原書第6版, 東京図書, 1978, 450p., (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程, 2), ISBN 978-4-489-01161-0.
  2. Schutz, Bernard F. シュッツ相対論入門 II 一般相対論. 江里口良治, 二間瀬敏史訳. 第2版, 丸善, 2010, 349p., ISBN 978-4-621-08311-6.
  3. 辻川信二. 現代宇宙論講義:基礎からの系統的な理解を目指して. サイエンス社, 2013, 201p., (SGCライブラリ, 99), ISBN 978-4-7819-9972-2.
  4. “アインシュタイン方程式の作用原理による導出”. 2015-04-06. http://blog.livedoor.jp/ihccr/pdf/Einstein_eq.pdf, (参照 2021-03-25).

脚注

*1 : δgμνはテンソルであるが, 添字の上げ下げについては通常の規則と異なることに注意せよ.

*2 : Aμの平行移動においてはAμ;ν=0であり,

(33)Aμxν=ΓαμνAα

となる. ゆえに, dxνだけ平行移動させたとき, ベクトルAμの変化は

(34)δAμ=Aμxνdxν=ΓαμνAαdxν

となる.

*3 : 今の場合, 局所慣性系であるからgμνの1階導関数は0であることに注意せよ.