無衝突Boltzmann方程式(collisionless Boltzmann equation)とは, あるポテンシャル下で運動する, 恒星系(必ずしもそれに限らないが)の位相空間
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恒星系の分布関数
「恒星系の分布関数」
:ある時刻 において, 位相空間のある位置 における微小体積要素 における存在確率
これを用いると, ある時刻
と書ける. また, 各方向の平均速度
と書ける.
無衝突Boltzmann方程式
- 無衝突系(collisionless):位相空間の各位置において, 恒星が新たに生まれたりあるいは死んだりして数が変化せず, また恒星同士が衝突しない系
無衝突系であれば, 恒星系の分布関数は位相空間における連続の式に従う:
ここで,
と は互いに独立- 運動方程式より
は だけの関数
であるから, 式
となり, 運動方程式
より
となる(無衝突Boltzmann方程式(collisionless Boltzmann equation)).
Jeans方程式
速度空間上での積分
式
となり, 第2項は
となる. 最後の項は,
は には依存しないこと で十分速く になること
を利用すれば, Gaussの発散定理より表面項のみが残り,
となる. 以上から,
となる.
のモーメントをかけて積分
式
となり, 第2項は
となる. 最後の項は,
は には依存しないこと で十分速く になること
を利用すれば,
となる. 以上から,
つまり
Jeans方程式
式
となる. 速度分散
のように導入すれば, 整理することで
を得る(Jeans方程式(Jeans equation)).
球対称Jeans方程式
球対称Jeans方程式(微分形)
ここでは, 球対称なJeans方程式を考えていく.
式
となる. ここで, 座標微分と速度成分の関係は
であり, また速度成分の微分は
となることに注意せよ(
式
で十分速く になること
を利用すれば,
となる.
式
となる.
式
- 分布関数の球面対称性を仮定する.
- 定常状態を考え,
- 平均からの差を考え,
- 視線速度と接線速度には特に相関関係はなく,
, , と書く
これらを用いれば,
となる. 異方性パラメータ
とすれば,
を得る. 式
球対称Jeans方程式(積分形)
式
を考えると, その解は
となる(
を考えるために, 式
となり, これを積分すると
となる. ゆえに, 非同次方程式
となる. したがって, 結果としてJeans方程式の積分形
が得られる.
このような表式であれば, 速度分散
ビリアル定理
Jeans方程式をさらに座標空間でモーメント積分をとることによって, 位置によらないその恒星系の大局的な力学関係を調べることができる.
テンソルビリアル定理
式
が得られる. 以下では,
となる. ゆえに,
:運動エネルギーテンソル :ポテンシャルエネルギーテンソル
を用いると, 式
と書ける. 式
となる. 一方,
:慣性モーメントテンソル
を定義すれば, 式
であるから,
が成り立つ. ゆえに, 最終的には
というテンソルビリアル定理(Tensor Virial Theorem)を表す式に帰着できる.
スカラービリアル定理
系が力学平衡にあるときは, 式
となる. この両辺のトレースをとって,
:系全体の運動エネルギー :系全体のポテンシャルエネルギー
を定義すれば,
が得られる(スカラービリアル定理(Scalar Virial Theorem)). 系の全エネルギーを
とすると,
が得られる. すなわち,
- 系からエネルギーを奪うと, 系の運動エネルギーが増える(系の「比熱」が負)
- 系のポテンシャルエネルギーは, 系の全エネルギーの半分である
が成り立つ.
スカラービリアル半径の応用
系全体の運動エネルギー
と系全体の平均的な速度分散
を定義すれば,
と書けることに注意せよ. また, 系全体のポテンシャルエネルギー
のように定義すれば,
と書けることに注意せよ(
式
と書ける. ゆえに, 系全体の平均的な速度分散
重力半径
となるそうである. 例えば, 密度一様で半径が
となる*3. また, 球状星団の分布をよく説明するPlummerモデル
を仮定する(
となる*4.
参考文献
- Binney, James; Tremaine, Scott. Galactic dynamics. 2nd ed., Princeton, Princeton University Press, 2008, 885p., (Princeton series in astrophysics), ISBN 978-0-691-13026-2.
- Schechter, Paul. 8.902 Astrophysics II. Fall 2004. Massachusetts Institute of Technology: MIT OpenCourseWare, https://ocw.mit.edu. License: Creative Commons BY-NC-SA.
- 千葉柾司. 銀河考古学. 日本評論社, 2015, p.44-50, (新天文学ライブラリー, 2), ISBN 978-4-535-60741-5.
- 牧野淳一郎. “理論天体物理学特論I 講義資料(3回目)”. 2003-11-09. http://jun-makino.sakura.ne.jp/kougi/stellar_dynamics_2004/note3/note3-e.html, (参照 2022-05-03).
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理論天体物理学特論I
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脚注
*1:
となり, その勾配は
となる. これを用いて,
となる. 積分変数
となり,
*2:
*3:密度一様な球内での重力ポテンシャルは
となるから,
となる.
*4:Plummerモデルに従う恒星系が作り出す重力ポテンシャルは,
となるから,
となる. また, 半径
であるから, 「質量の半分が入っている半径」
となる. ゆえに
のように計算できる.
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